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>>>登場ユニット紹介

 ユナイテッドサンクチュアリで発生した、“シャドウパラディン”による内乱。
大規模な戦に発展し、一時は国の滅亡まで示唆されるまでに至ったものの、
誰もが予想していなかった“ギアクロニクル”の全面介入がきっかけとなり、無事鎮圧。
首謀者は倒れ、“シャドウパラディン”が公的に解散したことで、聖域は再び平穏な日々を取り戻した。

 また、最大の功労者である“ギアクロニクル”の影に隠れてはいるが、ユナイテッドサンクチュアリの危機回避には、
同国家と友好関係にある様々な国や団体からの救援部隊の活躍が非常に大きかった。
中でも“ネオネクタール”からの救援、「アーシャ」率いる部隊は、捕らわれていた多くの人質を解放し、
“ギアクロニクル”に負けず劣らずの活躍を見せたという。

 だが、大半の人々は知らない。目覚ましい活躍を見せた立役者たちの裏に、
同じく聖域を守るために戦った多くの者がいたことを。

 ――これは、激動の裏で戦い続けた将と、彼が率いた部隊の物語。


「オルティア、報告を」
「は、まもなく上陸可能なポイントまで差し掛かります」

 海原にあがる水飛沫。飛び交う兵士たちの声。
上陸ポイント前――ユナイテッドサンクチュアリの沿岸に集結する“アクアフォース”の大部隊。


「よし、陸地での戦闘が可能な兵は上陸準備!それ以外の者は海上・海中より援護を!」

 隊が前後2つに分かれ、前衛と後衛が明確に判別できるようになる。
後衛は海中が主戦場となる「マーメイド」や構成水分量が90%を超える一部の「アクアロイド」などが、
前衛は構成水分量の低いアクアロイドや「ティアードラゴン」、「ゴーレム」などの姿が目立って見える。


「上陸ポイントに敵影確認!」
「前衛部隊第1陣、構え!」
「了解!前衛部隊第1陣、構え!」

 号令が飛び、部隊の最前列の兵士たちが速度をあげて先行。一斉に銃を構え――


「放て!」

 再び飛んだ号令に合わせ、大質量の光線が敵兵に降り注ぐ。
が、当然すべての敵兵を倒すには至らない。地形や味方を盾にして銃撃を凌いだ者や、
追って現れた多数の敵兵が、上陸ポイントで待ち構えている。


「第2陣、構え!」
「はい了解。第2陣行くよ!」

 しかし、“アクアフォース”の攻撃は決して一波では終わらない。


「放て!」

 銃撃を終えた1陣が速度を落として左右に割れ、間髪いれずに速度上げた、
「スキロス」率いる2陣が銃を放つ。先ほどとは違う、小さく連続した光弾の雨。
1陣のような必殺の威力は無いものの、人を戦闘不能にする程度は容易い。
討ち漏らした敵を片づけるには十分過ぎるほどの効果がある。
流れるような連続攻撃に次々と倒れていく味方を見て、臆病風に吹かれた“シャドウパラディン”の
兵士たちが少しずつ後退しはじめた。


「第1陣、第2陣は後方より合流、第3陣、第4陣はこのまま上陸を!」

“アクアフォース”きっての「中将」が、この機を逃す訳がない。
3度飛んだ号令と共に、3陣、4陣の兵が同時に速度をあげ、左右や海中に退いた
1陣、2陣の兵が再び集結し、それに続く。中将もまた、海馬から地上へと降り立ち、静かに抜刀した。


「この機に乗じ、敵を一掃せよ」

 彼が剣を向けた方角……逃げる敵兵の背を目掛けて、海兵の大軍が迫る。
再び降り注く光弾、哀れな敵兵の断末魔と、硝煙をあげる大地が
彼らの――「サヴァス」中将率いる「サヴァス隊」及び「蒼嵐艦隊」による連合部隊、その開戦の狼煙となった。


「ペトロス、オルティアは後衛の部隊を率いて周辺海域の警戒にあたってほしい。
マックス、ミトロス、スキロスは一部の兵を率いて再度周辺の調査を行ってくれ」
「了解!!」

 開戦直後にも関わらず、兵の士気はすでに最高潮。完璧な前哨戦をやってのけたサヴァスだったが、
彼自身がこの戦果に心動かされることは無い。


(事が上手く運び過ぎている……各国の救援部隊が、沿岸部や転送先で迎撃されているという報告があったはず……)

 むしろ、彼は上手く行き過ぎている現状を危険視していた。
先ほど帰還した調査隊から、敵影なしという報告を受けても、彼の不安は募るばかり。


(我々が手薄な箇所を引き当てただけであればよし……だが、そうでない場合は――)
「ち、中将殿!」

 その声に、サヴァスはようやく思考を止め、我に帰った。目の前には息を切らす兵士の姿。
青ざめた彼の顔を見て、サヴァスは状況が動いたことを把握する。


「何があった?」
「わ、わかりません!俺と一緒にいた見張りが全員やられて…!必死で逃げて…みんな死――」

 それは本当にただの勘だったのだろう。兵と真っ向から向かい合っていたサヴァスは、反射的に右に動いた。
その瞬間、兵士の口から亡霊のような何かが飛び出し、サヴァスの足を掠めて元いた場所に突き立ったのである。
亡霊を切り捨てるも手ごたえはなく、それは霧のように掻き消えてしまった。


「これは……!?」
「見事見事」

 掻き消える霧を油断なく見据えていたサヴァスの耳に、くぐもった声が届いた。
テントの入り口で拍手をする何者かへと即座に目を向けるサヴァス。


「何者だ?」
「失礼、我が名はギルヴァエース。“シャドウパラディン”団長、
クラレットソード・ドラゴン様より部隊を賜りし者、そして――」

 黄金のバラをあしらった豪奢な鎧に身を包んだ騎士――ギルヴァエースは、そこで言葉を切る。
サヴァスは再び嫌な予感を感じ、一歩後ろへと下がった。
その瞬間、地面から先ほどと同じ亡霊の剣が振りぬかれ、彼の顔に小さな傷をつける。


「……ッ!!」
「“アクアフォース”中将、サヴァス殿。貴君の命を奪う者だ」

 今度の剣は消えず、地面から這い出て幾度もサヴァスへと斬り掛かる。
が、サヴァスの剣は射程範囲に入り込んだ獲物を決して逃さない。
亡霊は目にもとまらぬ速さで切り刻まれ、またも霧となって消えていった。


「……なるほど、これまでも同じ手口で指揮官を暗殺していたという訳か」
「さすがはアクアロイド初の指揮官と名高い中将殿。察しが良い」
「指揮官は隊の要……先んじて討ち取ることで敵の混乱を誘い、叩く……」
「普通であれば、数多の兵に守護された指揮官を、それも戦の最中に暗殺するのは容易ではない……が、私の能力を以てすれば――」

 言葉を切るたび、ギルヴァエースの放つ亡霊が、様々な場所から出てはサヴァスを襲う。
だが、ギルヴァエースも気づいている。この方法ではサヴァスの命は奪えないと。
召喚した亡霊すべてを消された頃には、ギルヴァエースもまた剣を握っていた。


「剣を抜くのは久方ぶりだ。今までコレを見切れるものなどそうそういなかったのでね」
「………」

 騎士の戯言に、サヴァスは応えない。仮面の奥に光る怪しい眼光をジっと睨みながら、
相手の次の手を読もうと牽制している。


「さて、騎士として心躍る闘いではあるが」

 サヴァスは感じていた。魔術の類を駆使しなくても、この男が剣士として
相当な実力者であるということ。油断をすれば、自分も命を落とした隊長たちと
同じ運命を辿るということを。


「今は私も一軍の将。先に仕事をさせていただこう」

 不意に拡声の魔術を発動させたギルヴァエースに、サヴァスは戸惑いを隠せない。
サヴァスがこちらの行動を読めていないことを悟り、騎士は仮面の奥でほくそ笑んだ。


「“アクアフォース”中将サヴァスの首!クラレットソード様の騎士、ギルヴァエースが討ち取った!全軍、敵陣へ突撃せよッ!」
「何ッ!?」


「中将殿が討たれた!?」
「バカな……そんなことが!」

 魔術で増幅された声は拠点中に響き渡り、瞬く間に兵士たちは大混乱に陥った。


「と、とにかく真偽を確かめなければ!急ぎ中将殿の下へ!」
「ダメだ!結界のようなものが張られていて入れない!中も見えない!」
「ということは……中将殿は本当に……?」

 最初は声をはっきりと聴いた一部の者が騒ぎ立てているだけだったが、噂というのは
真偽のほどが確認できないと徐々に尾ヒレがつき、ねじ曲がって伝わっていく。
さらに――


「て、敵襲だ!」
「隊長に指示を……」
「その隊長が……中将殿が討たれたんだよ!」

 ギルヴァエースの合図を聞いた“シャドウパラディン”の兵が、混乱の真っただ中にある陣へとなだれ込む。
普段の彼らであれば、盗賊あがりの寄せ集めの兵ごときに負ける道理など無い。
だが、事この状況において、物量作戦は最も有効な手段だった。
敵兵が複数で1人を嬲ることに慣れているせいもあり、“アクアフォース”の兵士たちは次々犠牲になっていく。


「中将殿!中将殿―――ッ!!」

 まるで神にでも縋りつくかのように、末端の兵士たちはサヴァスを呼び続けていた。


「そういうことか……ッ!」

 おそらくは、サヴァスが斬り伏せた亡霊が霧散した際の魔力を使って構成したのだろう。
テントを覆うように張られた結界は、外の様子が全く見えず、また出ることも叶わない。
しかし、外で何が行われているのか、サヴァスは見えずともすぐに理解した。


「説明は不要のようだな。理解が早くて本当に助かる」
「貴様……ッ!」

 怒りの感情に後押しされ、サヴァスはついにギルヴァエースと剣を交えた。
光剣同士がぶつかりあう音が響き、騎士とサヴァスは初めて間近で眼光を交わす。


「おお、貴官もそのような顔をするのだな。なかなかに恐ろしい」
「今すぐ貴様を討ち、結界を破壊する!来たれ、天羅――」
「おっと、超越は……」
「……ッ!」
「させる訳にはいかない」

 大きく距離を取り、超越を起こそうとしたサヴァスに、しかしギルヴァエース機会を与えない。


「この狭い結界内で、私の射程から外れることは不可能だ。超越の力を過信するのは良くないな」

 超越の発動に時間を取ろうものなら、閃く騎士の剣が、正確にサヴァスのコアを貫くだろう。


「大した力も持たない癖に、超越・仲間・救援……己以外の力に頼ろうとするなどと――」

 そしてついに――


「バカげている」

 サヴァスの手から、剣がはじけ飛んだ。結界に弾かれ、地面へと突き立ち、それは光を失う。
膝をつくサヴァスの額に、ギルヴァエースの剣が静かに向けられる。


「ククク……最後は仲間たちの断末魔を聞きながら、散るといい」
(私は、私たちは……こんなところで終わるのか?)

 空いた片手から、鏡のような道具をいくつも召喚したギルヴァエース。
それらがサヴァスを取り囲むように立ち並ぶ。


(己の正義も、見つけられないまま……)

 そこには、大混乱に陥った陣中の様子が映し出されていた。


【中将殿!中将殿―――ッ!!】
【全員落ち着け!隊列を乱――】
【落ち着いてられるかよ!敵の奇襲だぞ!?】
【ダメだ…このままじゃ……隊は全滅だ……】

「ハハハハハ、滑稽だな。この時が最も愉快だ。弱者とはかくあるべき…改めてそう思わせてくれる」

 ひとしきり嘲笑した後、ギルヴァエースはサヴァスの額から胸へと、剣先を移した。


「アクアロイドのコアは心臓と同じ位置にある。コアが無事であれば、頭部が破損しても
回復した前例もある……残念だが、私はこう見えて博識でね」

(私の正義とは、いったい何だったのだ……?)

「出来損ないの中将殿。貴官の隊は私が責任をもって処分しよう。安心して散りたまえ」

(私の正義とは――)
『――思い出せ』

騎士の剣に貫かれる瞬間、サヴァスの体を光の柱が包み込んだ。


『これは……』
『考えろ、己の正義を』
『ランブロス……私は救ったのは貴官なのか……』
『正義の形は一つではない。だが、一人が胸に抱ける正義は一つだけだ』

『己の正義は、一つ……』
『そうだ。そして、皆が抱く数多の正義を抱え、導く者こそが将。それが私であり、貴官だ』
『数多の正義を導く者こそが……将』
『正義を束ねる者――将が兵より先に倒れることなど、あってはならない』

『……私はこのようなところで散る訳にはいかない』
『そうだ』
『皆の正義を守るため、私の正義を為すためにも』
『そうだ』

『感謝する。ようやく、自分の正義の片鱗を見つけ出すことができた』
『行くがいい。貴官にはまだ、なすべきことが残されている』
『ああ』

『激動という名の嵐を超え、正義を統べる存在。貴官こそがおそらく伝説の――』


「な、何事だ!?」

 突如発生した得体のしれない光を前に、ギルヴァエースは思わず大きく後退した。
サヴァスに向けていた剣は、柱に触れたことで剣先が消滅している。
迂闊に手を出すことはできない。


「まずい……この光を見て、様子を見に来る兵士どもがいるはず……その前になんとかサヴァスを――」

 だが、状況は騎士に考える隙を与えない。光の柱が目を向けていられないほどに激しい輝きを発し、
彼は思わず腕で顔を覆う。光はすぐに収まり、柱も消滅している。代わりにたたずんでいたのは――


「サヴァス……!?」

 純白の光に包まれたサヴァス。
姿に大きな変化は無いものの、その身にまとう雰囲気がこれまでとは明らかに異なっている。


「いったい、何が……」
「――海よ」

 そのつぶやきと同時に、大地から海水が染み出し始める――いや、染み出すなどといった
生易しい水量ではない。“アクアフォース”が拠点としていたこの陣は、突如出現した「海」に沈んでいた。


「ば、バカな!?海水を……海を召喚――いや、錬成したというのか!?あり得ぬ!」

 いち早く空に逃れたギルヴァエースだったが、魔術の心得の無い“シャドウパラディン”の団員たちはそうは行かない。
ほとんどのものが流され、溺れ、阿鼻叫喚という言葉が相応しい絵面になっている。
逆に、“アクアフォース”にとって海は主戦場。
陸に上がろうとする敵兵への追撃や、負傷した仲間の運び出し、それぞれ迅速に行動し、被害を最小限に抑えている。


「お前は、何者だ!?この魔力量、とても命1つに内包できる量では……」
『ギルヴァエース。最後に私から貴様に、この言葉を贈ろう』

 召喚した海馬にまたがるサヴァス。その剣が強く輝き、


『出来損ないの騎士殿。卿の隊は私が責任をもって処分しよう。安心して散りたまえ』
「き、きさ…貴様ァァァァァァァァ――」

 天を貫く巨大な光となった斬撃は、雲を裂き、海を割り、絶叫する騎士を呑み込んだ。


「その時の中将殿の活躍といったらもう!」
「なんと、それは……」

 あの戦いの後、聖域の内乱は彼らの到着を待つことなく、決着を迎えていた。
縁のある“ギアクロニクル”の青年と少女から終戦の報告を受けたサヴァスは、
速やかに陸地から撤退。海を渡って亡命を試みる “シャドウパラディン”の残党を捕らえるため、
各所に小隊を派遣し、大半の部隊を引き連れて本部へと帰還した。


「指揮官が中将殿じゃなかったら間違いなく全滅してたね」

 聖域では影の立役者で落ち着いてはいるものの、海軍内でのサヴァスの評判はあがる一方。
ここで熱くまくし立てている蒼嵐艦隊所属の兵士「ホメロス」も、サヴァスの活躍を直に目にした者の1人である。


「相手は他国の救援部隊を幾つも全滅させた恐ろしい敵で……」
「噂には聞いてたが、それほどとは……」

 かつては遠巻きにされていたサヴァスも、今や時の人。彼の名と今回の功績を知らない者は、
最早軍内に1人もいないのではないかと言われるほどだった。
しかし――


「くだらん話をしているな」
「た、大佐殿……!」
「無駄話をしている暇があるならば、鍛錬に励まんかッ!」
「は、ハッ!失礼致しましたぁぁ!」
「……フン、まったく」

 得体のしれない経歴を持つサヴァスを敬遠していた者が、より一層彼を嫌うきっかけに
なったのも事実である。特にこの強面の男――海軍大佐「セバスティアン」は心底サヴァスを
嫌っており、決して彼を認めようとしない。サヴァスが中将に昇格した際などは、
なんと海軍大将「メイルストローム」に、取り消しを求める直談判を行ったほどである。


【大将殿!なぜあの男を重用されるのです!あのような軟弱で臆病な腰抜けを!
これまでロストナンバーとしての力を隠していた上に、習得した超越とやらも積極的に
使うつもりは無い様子!軍の為に、正義の為に、常に全力を振るえない者が
この軍を率いていく立場にいるべきではないはずです!】


【……かつて、我は勝利を得るため、強大な力を躊躇いなく使い、結果、道を誤った。
サヴァスは己の力の大きさを恐れ、葛藤し、それでも最善の結果を得るために己を開放し、道を拓いた。
力を恐れるのは悪などではない。己が振るうべき力を見定める――強大な力を持つ者ほど、
己の力を恐れねばならぬ。……ぬしにもいずれ、理解できる日が来るやもしれぬ】

 その時のメイルストロームに言葉を返すことができず、その場は引き下がったが、


「己の力を恐れるなどと……、バカバカしい!」

 彼がサヴァスを本当の意味で認める日は百年後か、二百年後か……。


「此度の戦、見事であった。我以外に蒼嵐艦隊を率いることのできる将はサヴァス、ぬし以外はおらぬ」
「お言葉、ありがたく頂戴いたします。ですが、労いの言葉はぜひ、散っていった将兵たちに…」
「変わらぬな、ぬしは」
「……いえ、お言葉ではございますが、随分と変わりました」
「ほう…それは、何故か?」
「仲間のおかげ……とだけ、申しておきます」
「そうか……もうよい、あとは自室にて、戦の疲れを癒すがいい」
「ハッ、失礼致します」

 言葉数少なく、メイルストロームの下を去るサヴァス。
自身の100分の1にも満たない小さな背中に、海軍大将はわずかながら羨望のまなざしを向けた。


「かつてのアクアフォースにぬしのような者がいれば、我らには違う未来があったのかもしれん」


(大将殿の御前に立つのは今でも緊張するものだ……)

 平静を装ってはいたが、サヴァスはメイルストロームを深く尊敬している。
もちろん、これはサヴァスに限らず、“アクアフォース”所属の兵士すべてに共通することでもある。
解放以降の“アクアフォース”を、たった1人で統率し続けてきた彼を敬わない者など、この軍には存在しない。
しかしサヴァスの場合、尊敬の念とは別に個人的な恩義もあるため、余計にそれを意識してしまうのである。


(ロストナンバーの隠ぺい目的もあるとはいえ、私のような爪弾き者に将官の地位を
与えてくださった。それに――)

「む……」
「………」

 通路で偶然、セバスティアンとすれ違うサヴァス。
彼に嫌われているのを理解しているサヴァスは、何も言わずに彼の隣を通り過ぎようとするが、


「サヴァス中将、自分は貴官を将官の地位にあたる者として認めていない」

 すれ違った直後、唐突なセバスティアンの声に、思わず振り返る。
彼は後ろを向いており、どんな表情をしているのかはわからない。


「……だが、貴官の功績だけは多少認めてもよいと考えている」

 サヴァスの反応を気にしてか、セバスティアンがちらりと振り返る。
その顔を見たセバスティアンは、怒りをあらわにし、大声で捲し立てた。


「あくまで功績だけだ!断じて!貴官のことを認めたわけでは無いからな!」

鼻息も荒く、のっしのっしと熊のように歩いていくセバスティアン。
ふと横を向くと、ガラスに映る自分の顔が見えた。自然に微笑む自分の顔が。


「あ、隊長!」

声のした方にいたのは、いずれもサヴァス隊のメンバー。
候補生の「アンドレイ」。そして、海馬乗りの「ポロ」と「ミトロス」の3人。
声を上げたのはミトロスだったようで、こちらに小走りで駆け寄ってくる。


「隊長、今日も教導お願いできませんか?」
「わかった。訓練室で待っていてくれ、すぐに向かう」
「よっしゃー!ありがとうございます!」

 両手をあげて喜ぶミトロスを見て、ポロとアンドレイもおずおずと近寄ってきた。


「あの、自分もよろしいでしょうか?」
「じ、自分も…!」
「もちろんだ。アンドレイにも、そろそろ本格的な海馬乗りとしての教導をしようと考えていた」

 不安そうな顔から一転、パァァと明るい顔を見せる2人を見て、サヴァスは考える。


(こうして彼らと出会えたのも、元を辿れば忌むべきロストナンバーとしての力のおかげ、か)

 彼らと別れ、自室に戻り、教導のための準備を整える。


(力も正義も、すべては考え方次第。そう……正義は一つではない)

 自然と、彼の脳裏にある言葉が思い起こされる。


(正義は一つではない。 我らの数だけ正義がある。 何が正しいのか、常に問え)

 それは、ある同胞から教わった、未来の格言。


(……伝えていこう。私たちは皆、新たなステップへ進まなければならない)

 教導用の軍服に着替え、部屋を出る。おそらく訓練室ではミトロスがアンドレイに嘘を教え、
それを見たポロが助けに入っている、といった展開になっているだろう。
日常の展開ですら予想してしまうのは、指揮官の性か。


「わっ!?うわぁぁぁぁ!?」
「ダーッハッハッハッ!アンドレイだっせー!!」
「ちょっ、アンドレイ!そんな引っ張り方したらダメだよ!」

 予想通りの展開を見せてくれる3人を見て、サヴァスはまた思わず笑ってしまう。
気づけば、訓練室にはサヴァス隊の面々が勢ぞろいしていた。
サヴァスがここに来ることをミトロスあたりが皆に伝えたのだろう。
入室したサヴァスに気づいた者が続々とこちらに向かってくる。


(大将殿……私もいずれ貴方のように、“アクアフォース”を導く存在になりたい。ですが、今は――)

――彼の者の名は、サヴァス。
伝説のロストナンバーの1人であり、アクアロイド初の海軍中将、そして、
“アクアフォース”を新たな世代へと運ぶ、恵みの嵐。





  嵐を超える者 サヴァス
“アクアフォース”初となるアクアロイドの将官。階級は少将(本編では中将に昇進)。

表向きには第554世代となっているが、その正体は「ロストナンバー」として有名な第555世代の試験体である。開発関係者である将官が失態を隠す為、サヴァスを554世代の逸材として高い地位に据え、追及を避けようとしたのが、将官に位置付けられている理由である。

アクアロイドとして規格外の力を持つが、それを悟られないよう、前線に出る事を拒み続けており、臆病者のレッテルを貼られてしまう。周囲の評判もすこぶる悪かったが、ある事件で力の一端を見せた事を機に評価が一転。部下から絶大な信頼を得る事になる。

 
 

嵐を統べる者 コマンダー・サヴァス
「超越共鳴(ストライド・フュージョン)」によって、未来における自身の可能性を、その身に降ろした「サヴァス」の姿。危機に際して現れた「ランブロス」の助言により、自分だけの正義を垣間見たことで、遥か未来の自身のイメージと繋がり、超越共鳴を引き起こした。

自身を構成する水分の一部を切り離すことで、海水を錬成し、即席の「海」を作ることができるほどの魔力を内包する。彼を構成する水滴1粒1粒に、現代のアクアロイド1体が持つ総魔力が込められているということからも、その恐ろしさが伺える。

彼はこれからも迷い、悩み、常に己の正義を考えるだろう。1つの固定概念に捉われない、新たな正義の形。それが“アクアフォース”の今後を大きく左右するきっかけとなるのは、まだ先の話である。

   
天羅水将 ランブロス
はるか未来からやってきた“アクアフォース”の少将。「天羅水将」の異名を持ち、数々の戦を勝利へと導いてきた名将。

本人曰く第3822世代のアクアロイドとの事だが、その真偽を知る方法は無い。しかし、彼の持つ兵装に備蓄されているハイドロエナジーの量が現代のそれとは比較にならないほど膨大かつ高純度のものである事から、少なくとも未来の存在であるという点だけは確証が得られる。

「正義は一つではない」から始まる格言が口癖であり、これは彼の時代の英雄が遺した有名な言葉らしい。

正義に悩む将に、かつて正義に悩んだ将が教えるのは、自分を救った唯一つの格言、それだけである。

   
  戦場の歌姫 オルティア
惑星クレイきっての海軍“アクアフォース”の軍人にして「サヴァス」隊の一員。階級は少尉。人当りがきついが、困っている者を放っておく事のできない面倒見のよい性格をしている為、「アンドレイ」ら候補生の教育係を任されている。

今まで他の「戦場の歌姫(バトルセイレーン)」と共に哨戒任務にあたっていたが、教育係となってからはオペレーターなどの内部任務にまわされる事が多いという。最初は不服そうに振る舞っていたが、最近ではすっかりオペレーター業が板についてきており、本職の地位を脅かしつつあるという。

   
  ケルピーライダー ペトロス
「サヴァス」が率いる部隊に所属する女性型アクアロイド。階級は中尉。戦場においては「ハイドロクロスボウ」の射撃によるサヴァスの後方支援のほか、バトルセイレーンたちの小隊を率いる指揮官としても活躍している。

歌声によって兵士の士気を上げるなど、バトルセイレーン部隊は主に後方支援を担当することが多いが、ペトロス小隊は例外的に、戦闘力に優れるメラニア、アデライード、そして指揮官ペトロスの三人が前線に立つこともある。

美しいフォーメーションでしなやかに海中を舞う彼女達を捕らえられた者は今のところ皆無。海の荒くれ者も「海中の三流星」と渾名し恐れをなすという。

   
  斬波刀の水将 マックス
「サヴァス」隊の一員にして第589世代のアクアロイド。階級は少佐。他世代のアクアロイドとは違い、太陽の下に出る事を異様に好む。

ハイドロエンジン搭載武装を使わず、船のマストを叩き斬るほどの肉体派で、その戦い方に違わず気性も荒い。

不慮の「超越」によって「タイダルボアー・ドラゴン」を召喚してしまい、その余波で意識を失い窮地に立たされるも、「バタリーブーム・ドラゴン」中佐らによって無事救出。事の顛末を聞いた直後、サヴァスに床を割る勢いで土下座したという熱いエピソードがあるとか。

   
  ケルピーライダー ミトロス
第620世代のアクアロイド。現在は「サヴァス」が率いる部隊に所属している。階級は曹長。

海を愛する若きアクアロイドで、真珠色のケルピーを乗りこなし、嵐が渦巻く戦場にも物怖じせずに出撃する。その性格のこともあり、天候の荒れた戦場にサヴァスと共に少数精鋭で出撃する機会が多く、その戦いを目前で見届けてきた。その影響もあってか成長目覚ましく、部隊の中には「ミトロスの戦いの中に、サヴァス隊長の面影を見る」という者も。

天候に関わらず海馬を乗りこなすコツを聞かれた時には「凪でも嵐でも、海は海だろ?」とのこと。本人はあまり自覚がないらしい。

余談であるが、サヴァス隊の名騎手「デニス」の言よれば、嵐の海流に逆らわずに海馬を進めるのは、よほどの天才か、達人の域に達する者でないと難しいとの事である。

   
  蒼嵐の盾 ホメロス
“アクアフォース”の精鋭部隊「蒼嵐艦隊」に所属する、第604世代のアクアロイド。604世代は総じて「防御」をテーマに、過去の成功事例で目指された兵士を、現在の技術で再度研究しなおすというコンセプトで生み出されている。

「ホメロス」は、「翠玉の盾」の異名で有名な「パスカリス」のデータを基に、蒼嵐艦隊の兵士として相応しい力を発揮できるよう調整された兵士。当時のパスカリスらが魔力の込められた結晶体――「輝石」を使用して力を行使していたのに対し、ホメロスら604世代の兵士たちは、製造が用意なハイドロエンジンの結晶体から、力を引き出すことができる。

研究が遅れたために投入が遅くなってしまい、618世代と同程度の実戦経験しか持たないものの、これからいくらでも化ける可能性を秘めた逸材である。

   
  蒼嵐水将 セバスティアン
“アクアフォース”の精鋭部隊「蒼嵐艦隊」に所属する第59世代のアクアロイド。階級は大佐。ジャイアントと膂力で真っ向勝負ができるほどの怪力を誇る巨漢の男。

彼が誕生した頃の“アクアフォース”は、「己や味方の身を犠牲にしてでも正義を為す」という考えの下に行動していた為、古き軍の在り方を重んじる気質がいまだに抜けていない。納得いかない采配があれば「メイルストローム」にすら臆さず意義申し立てをする豪胆な性格で、自身が臆病・軟弱と見限った者に非常に厳しくあたる。

「サヴァス」を殊更に嫌っており、彼が中将に昇進するという報を受けた際には、司令室の扉をぶち破って飛び込んだという話まである。

反面、認めた相手のことは無条件にどこまでも信じる実直な一面もあり、古参の戦士からは非常に慕われているという。

   
  ケルピーライダー ポロ
「サヴァス」隊の一員にして第618世代のアクアロイド。階級は曹長。今まで誰も背中に乗せなかったという暴れ海馬を乗りこなした唯一の騎手。

海馬乗りとしてのスキルも特に目を見張るようなものは無い平凡な兵だった為、彼が暴れ海馬を乗りこなせた理由についてはいまだに謎のままらしい。

なお、暴れ海馬は主以外が背中に近づいただけで鼻息荒く威嚇してくる。竜の鱗すら噛み砕く彼の牙を味わたくなければ、ポロが跨っている時以外は近づかない方が良い。

 
  士官候補生 アンドレイ
「サヴァス」隊では「アレキポス」の次に若い、第620世代のアクアロイドにして、士官候補生の一人。

海馬への騎乗スキルを中心に、候補生としては高い水準でまとまった能力を持つが、実地での戦闘経験が浅い為、まだまだ逆境に弱い。

数年前、訓練中の事故で一級危険種に捕食されそうになったところをサヴァスに救われており、その際に彼の実力を目の当たりにしている。それ以来サヴァスに心酔しているが、当時の出来事については本人から口止めされている為、彼が酷評されている現状を歯痒く思っている。

   
 

蒼嵐竜 メイルストローム
惑星クレイにその名を轟かす最強の海軍、“アクアフォース”を統べる総司令にして、唯一人の海軍大将。“アクアフォース”が解放されて以来、軍のトップに立ち続け、兵士たちを導いてきた。通常の戦艦や空母の全長を超える規格外の体躯を誇り、平時は彼専用の巨大な軍艦で執務を執り行っている。

今になって、頑なに拒んでいた「大将」を名乗った理由は不明であり、「過去の大将たちの復活を諦めた」という説をはじめとする多くの噂が出回っている。

過去に犯した過ちを今なお悔いており、若き兵士たちに同じ過ちを繰り返させないよう、注力している。仲間を重んじる「サヴァス」や「ジノビオス」のような者たちが、今後の“アクアフォース”を担っていくだろうと予想しており、影ながら彼らの成長を見守っている。

   



  暴慢の騎士 ギルヴァエース
現在“シャドウパラディン”を牛耳る「クラレットソード・ドラゴン」に与する闇騎士。聖域内のある貴族の家系に生まれた彼は、幼少の頃から剣の才能を見出され、英才教育を受けた。家紋である薔薇をあしらった武具から「紅き薔薇のギルヴァエース」と呼ばれたが、祖父を亡くし、一族の間で遺産に関する争いが絶えなくなった時期に、彼はその消息を絶った。

影の騎士団に入隊後は、黒魔術の研究と剣の修行を両立しながら力をつけた。黒魔術を施した“髑髏薔薇(スカルローズ)”を装飾した武具を愛用し、今、その強さを持って部隊内の地位を上げつつある。

噂によれば、ある貴族の館を襲撃した武勲をクラレットソードに認められたらしい。襲撃はほとんど彼一人の手で成され、返り血で染まった「紅い薔薇の鎧」で帰還したという。

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