『週刊ヴァンガードコラム』バックナンバー 第48回

『週刊ヴァンガードコラム』

第48回 『閑話・ファイト構成小話』

みなさん、こんにちは!第48回となりました、週刊ヴァンガードコラムを書かせていただいております、有限会社遊宝洞・制作の中尾でございます。今週もよろしくお願いします。
 
ついに発売されました「竜皇覚醒」、皆様お楽しみいただけていますでしょうか?先日「ファイターズロード2017全国決勝大会」でも「竜皇覚醒」のユニットたちが早くも活躍していたようで、熱いファイトがたくさん行われていました。
 
またアニメ「ヴァンガードG NEXT」もU20チャンピオンシップが決勝戦に突入、物語も佳境となっております。そこで今回はいつもと趣を変え『閑話』と題しまして、我々遊宝洞がアニメにおいて担当させていただいておりますファイト構成についてお話しいたしましょう。
 
ファイト構成を作る、と言いましても物語の流れはファイト作成のはるか前に決まっていますし、ファイトするキャラクターの勝敗はもちろんのこと、例えば使用されるユニット等もある程度決まっています。
 
ヴァンガードが放送開始されてから約6年8カ月、各話数でキャラクターたちが繰り広げたファイトの数はかなり凄い量になっており、そのほぼすべてにファイト開始から決着までの盤面や手順を記したファイト構成資料があります。
 
この資料、どういうものか説明しますと、要はお互いのデッキ内容はこう、開始時の手札はこの5枚、1ターン目はAを引いて手札からBにライド、ターン終了、終了時の盤面はこうでお互いの手札内容はこう……といった感じの情報が決着の瞬間まで続いているというものです。
 
前述のとおり各話数にはテーマや目的、狙いがあり、例えばこの話数ではこういう出来事が起こり、キャラクターたちはこう考え、こういう感じに物語が進む……と決まっていますから、これに合ったファイト構成を作るのがアニメ制作における我々の仕事となります。
 
そしてそれをもとに(正確には並行して)監督さんや脚本家さん、他のスタッフの皆さんにファイト部分のセリフや演出等をつけていただく、という流れです。もちろんこの際、要望などがあれば調整しますし、私からも「こういうセリフがあると良いのですが……」と提案させていただくこともあります。
 
当然、全話数のファイトを私一人で作っているなんてことはありません(それどころかメインで担当させていただいているのは「ギアースクライシス編」の最後あたりからで、それ以前はスポット程度でした)し、無制限好き勝手に作ってよいわけでもありません。
 
ヴァンガードに登場するキャラクターたちは皆とても魅力的で個性的です。それに助けられつつファイトをいくつも作っていると、なんと言いますかそのキャラクターたちと、ある種の信頼のようなものが醸成されていく事もあるのですが、そんな中で最も“信頼”しているのが……
 
チームストライダーズの《ゴールドパラディン》使い、明日川タイヨウ君!
 
彼はとても研究熱心で努力家。ファイトスタイルにもそれが色濃く出ていて、特に守りのうまさは歴代のキャラクターたちの中でも屈指の実力を持つ技巧派です。(偶然ですが初登場回のファイト構成を担当した縁もあり、個人的にもちょっと思い入れが強かったりします)
 
「ヴァンガードG NEXT」を制作するにあたり、ファイトもさらに臨場感のあるものにしたい、これを序盤のクライマックスに持っていきたいとのご相談を受け、その転機となった話数のファイトもタイヨウ君の一戦でした。
 
それが「ヴァンガードG NEXT」12話、「最後のチャンス」。この話数のテーマはまずトリニティドラゴンの成長と実力を示すこと。そしてまさかのタイヨウ君敗北で大ピンチ、すんでのところに駆け付けたカズマ君が、タイヨウ君の気持ちやクロノ君の信頼に応え、また一つ成長する!というものでした。
 
写真
 
写真
→ファイト構成資料の拡大画像はこちら
 
このファイトの勘所をざっくり解説しますと、タイヨウ君は持ち前の洞察力とそれまでの展開でカル君の手札内容をすべて看破、攻防一体の“最大効率”で勝負を仕掛けます。しかし運命のいたずらか、ダメージチェックのドロートリガーでカル君が引いたカードはヒールトリガー、これによってまさかのGガーディアンでガードに成功。
 
そして返しのターン、カル君は手札をすべて投げうって“最大出力”でアタック、ここでノートリガーなら敗北必至の状態からクリティカルトリガーを引き当てます。カル君の思い切りのよさと終始徹底したプレイング、そしてそれに7ターンと8ターンのトリガー運が噛み合い、タイヨウ君の高い技量を凌駕した形で決着、という流れになっています。
 
この構造はそのまま対比にもなっており、奇しくもタイヨウ君の最終ターンとなった7ターン目で、もしグルグウィントのガードコストを残さず、グレード4グルグウィントのスキルを2回使用していれば勝利しており、またそれにお互い気付いていて……という内容です。
 
二人の名誉のために言いますが、この敗着の一手は明確なミスではまったくなく、あくまでも結果論的なものです。“最大効率”と“最大出力”の選択と、その結果による失敗と成功というのはファイターであれば誰しもが経験したことがあるはずです。
 
このファイトはあえて“失敗”に焦点を置き、さらに作中でそれに気づき、また逆ならば……という所まで見せています。これは今までのアニメでは、少なくとも大一番ではやっていなかったことで、かなり挑戦的な試みでした。
 
しかし「ヴァンガードG」が大切にしているキャラクターや舞台のリアリティを掘り下げ、今後のファイトにより臨場感を出していくためには必要なものです。やや極論ですが、失敗しない人物に臨場感や親近感、成長を感じることは難しいものです。ファイターであれば経験したことがあるはずのことは、キャラクターたちだって経験し成長するはず……
 
とはいえ放映まで本当に不安でした。もちろん監督さんや脚本家さん、スタッフの皆さん、そして演じてくださる声優さんたちがいますし、アニメを見てくれているファイターの皆さんなら伝わるはずだから絶対大丈夫と頭ではわかっていても、“失敗という結果”ばかりが先走り、タイヨウ君たちの株を下げてしまわないかという思いは拭えませんでした。
 
しかし蓋を開けてみれば、多くの皆さんが“タイヨウ君頑張った”、“あれは悔しい、でも仕方ない”、“トリニティドラゴンの強さ、本物だ”という感想を抱いてくださいました。本当にありがたいことです。皆さんの力もあり、試みは成功したのです。
 
もちろんこのファイトはその後のタイヨウ君にも経験としてしっかりと引き継がれています。17話のvsトコハちゃん戦や24話のvsシオン君戦や30話のvsベルノさん戦、43話のvsクミちゃん戦も様々なやり取りがあり、30話のベルノさん戦はこれまたお互いに47話に繋がっていて――
 
全部書き始めると無限に書けてこのコラムのスクロールバーが本当に巻物みたいになってしまうのでこの辺にしておきましょう。
 
とこんな感じで毎週、我々はアニメ制作にも携わらせていただいています。今回はカードの話は全くしませんでしたが、たまにはよいかなということで……。もし反響(と関係者みなさまの許可)があれば、またこういうお話しもしたいと思います。
 
決勝戦も折り返し、さらに白熱するアニメ「ヴァンガードG NEXT」でもU20チャンピオンシップ、ぜひチェックしてみてくださいね!
 
さてさて、週刊ヴァンガードコラム、いかがだったでしょうか?お楽しみいただけたならばうれしい限りです。
よろしければ、是非Twitterなどで感想やご意見などをつぶやいていただけますと幸いです。

それでは、また来週。
スタンドアップ・ヴァンガード!

↑ページのトップへ

中尾 宗也なかお むねなり

さまざまなゲームのシステムデザインを手掛ける、有限会社遊宝洞にて制作を担当。『カードファイト!! ヴァンガード』では、カードデザイン・開発に携わる。

遊宝洞 中尾氏

最新の記事はこちら

↑ページのトップへ

ページの先頭に戻る